今すぐ行動を:海運における EU ETS コンプライアンス
DNV ジャパン カントリー・マネージャー Stian Sollied
2024 年 1 月 1 日より、欧州連合域内の排出量取引制度(EU ETS)が海運業界にも正式に導入されました。EU/EEA海域で船舶を運航する事業者にとって、EU ETS のコンプライアンスが喫緊の課題となっています。事態の重大性を認識して、積極的な措置を講じるべき時だと言えます。
欧州に本社を置く DNV は、政策担当者、用船者、船主、管理会社などの関係各所と連携しながら、EU ETS の動向を注意深く監視してきました。こうした取り組みに加え、EU ETS 導入後の最初の数か月間を分析した結果、早急な対応と行動を要するいくつかの重要な点が明らかになりました。
準備が鍵を握る
欧州とそれ以外の地域(特にアジア)との間で、企業の準備状況に隔たりがあることは周知の事実です。アジアのいくつかの船舶運航事業者で準備が遅れているのは、精度の劣る報告・検証システムに苦戦しており、必要以上に時間が掛かっているためです。
欧州企業には EU ETS が長年適用されてきたことを踏まえると、これ自体は驚くべきことではありません。ただし海運に関しては、EU/EAA の港に寄港する限り、本拠地を問わずすべての企業が EU ETS の対象となります。
データの品質とリアルタイムの検証
EU ETS への対応を進めることは、海運分野のデータ管理における大きな変化を意味します。EU MRV や IMO DCS などの他の規制と異なり、EU ETS では取引メカニズムの性質上、日々のデータを逐次処理する精度が求められるからです。規制上は EUA を EU に毎年提出するだけで十分ですが、財務上および経営上の観点からは、年次報告だけではもはや不十分となっています。日々の報告、リアルタイム検証、訂正、ステークホルダーの要請に応じた排出量報告が、今やいずれも不可欠となっているからです。
データが不正確であれば、バリューチェーンのステークホルダー間で排出量計算に食い違いが生じ、財務結果に直接影響を与えることになります。これは重大な財務リスクとも直結しています。つまりデータ品質の確保は規制上の義務であるだけでなく、財務上不可欠でもあるのです。
商業契約に関する考慮点
EU ETS の導入により、定期・航海用船契約向け条項(手当費用に関連する取引決済条件を標準化するための契約条項)を BIMCO が策定するなど、進展が加速しています。
BIMCO の条項では、用船期間を通じて船主と用船者が連携して、すべての関連データと情報を適時に交換することが定められています。その目的は、当事者が船舶に関する排出枠を計算できるようにし、コンプライアンスを促進することにあります。さらに排出データについては、当事者間で商業上の義務を決める際の基準になるため、検証を経る必要もあります。
DNV によるサポート
複雑な EU ETS コンプライアンスを見据え、DNV では万全の体制で海運業界を支援しています。DNV の包括的なデジタルシステムは、排出量報告を合理化し、データの取得から検証までの全プロセスを担います。当社は、Emissions Connect と統合パートナープログラムによりスムーズなデータ転送とリアルタイム検証を可能にしており、すべての関係者に信頼できる知見を提供しています。また、FuelEU Maritime などの将来的な排出ガス削減計画についても、事業、財務、運用の各側面から全面的にサポートしています。
当社は第三者検証機関として、データ基準の向上、フィードバックの即時提供、継続的な改善に注力しています。検証機関としての公平性を維持しつつ、データへの信頼を高め、真の業界コラボレーションを実現することを目指しています。
結論
今こそ行動が必要です。EU ETS が実際に導入された今、海運業界はコンプライアンスに対する積極的なアプローチで臨む必要があります。準備を優先し、データの整合性を高め、協力関係を強化することで、EU ETS の課題に効果的に対処できます。今後の海運セクターの透明性、説明責任、環境責任、そして持続可能性のある未来へと磨き上げる絶好のチャンスだと言えます。